旅路

 

本は心の旅路

 

有隣堂のブックカバーにはそう記されている。

 

うんうん、ほんと、そうなんだよね!

というほどの気持ちに至るほど、心の素地が育っていないのだが、

平日の仕事疲れに沈む心を、どこか広い空に放り投げてくれるような言葉だ。

 

通勤時、車窓のない地下鉄に揺られている間、スマホをいじるより本を読むことにしている。

それは単に、見渡す限りほぼすべての人間がスマホを触っていることに対するしょうもない反抗心がきっかけではあるのだが、

本を開けば広がっている、他者のフィルターを通してみる世界は、味気ない地下鉄の時間を豊かにしてくれる。

言ってみれば、私は本の中の世界を車窓としているのかもしれない。

 

 

肉体が溶けていくような激しい暑さの夏も過ぎ去りつつある。

朝晩は窓を開ければ、涼しい風が部屋を吹き渡るようになってきた。

 

街灯に照らされた樹木に住まう蝉たちが夜通しシャワシャワと鳴いていたのに代わって、いまは鈴虫たちが静かに音色を奏でている。

 

秋の夜長、優しい夜風に吹かれながら、珈琲を片手に、ゆったりと本を開いてみるのもいいかもしれない。